30MMの公式ストーリーは以下のような簡易的なものです。この想像力を掻き立てるシンプルかつ情報の少なさが、小説を書こうと思ったキッカケでもあります。小説のあとがきとして製作時の覚書のようなものをここに書き残しておきます。
球軌道上に空間転移門(ゲート)が突如出現した“スカイフォール”から数十年が経過していた。
未だ世界紛争は至る所で起きているが、ある兵器の誕生が近代戦闘の戦術を一変させる。
拡張型武装及びモジュール結合システム通称“エグザマクス”の登場が瞬く間に世界の軍事バランスを塗り替えた。
2XXX年末。
再び、地球軌道上に空間転移門(ゲート)が出現する。
ゲートから現れたのは、地球人と似た容姿の惑星バイロン人だった。
バイロン軍はエグザマクスとよく似た機体“ポルタノヴァ”で各国に攻撃を開始。
紛争をしていた各国は地球連合軍を結成。
地球連合軍とバイロン軍の戦いの火蓋が切って落とされる。
30 MINUTES MISSION | バンダイ ホビーサイトより引用
公式ストーリーから読み取れる確定事項は次のとおりです。
- 過去にスカイフォール(空間転移)が起こっている。
- エグザマクスが地球国家間での戦争に用いられている。
- 2回目のスカイフォールでバイロン軍が出現する。
- バイロン軍のポルタノヴァはエグザマクスとよく似ている(プラモデルはパーツ互換が可能)。
- バイロン人は地球人と似ている。
- 対バイロンに、それまで戦争をしていた国家間で地球連合軍を結成
第一に、地球連合軍の兵器と、異星のバイロン軍との兵器に互換性があるということは、万が一にもありえません。
また、空間転移技術を有するバイロン軍側のほうが科学技術レベルが高いという前提条件があります。にもかかわらず、地球側がバイロンと同等のロボット工学技術を有していることは、過去にバイロン軍からの技術供与なりの、なんらかのつながりがあったことが想像できます。
となれば、自ずと「スパイ」や「亡命者」という単語が浮かんできます。それもロボット技術に精通した人物でなければならなりません。物語のキーパーソンとなるため、可能な限り意外な人物が望ましいでしょう。
そこで生まれたキャラクターが本小説のヒロインであり、バイロン星のお姫様であり、エグザマクスの製造元であるサイラス社のセイラム・バイロンことセーラ・イノウエ専務理事です。
バイロン軍の侵攻は奇襲であったことから、2回目のスカイフォールが起こるまで地球人はバイロン軍の存在を知らないものとしなくてはならなりません。しかし、仮想敵がいなければ新兵器は開発されないものだからして、エグザマクスは製造元のサイラス社によって地球の戦争のための兵器として開発されながらも、秘密裏に対バイロン用にエグザマクスを開発したことにしました。
事前にバイロン軍の侵攻の驚異があることを知っていれば、地球人同士の国家間戦争どころではありません。とはいえ「数年後に宇宙人が攻めてくる」などと言われたところで信じる人間はわずかでしょう。パイロン軍の侵攻以前の地球上での紛争は、いわば対バイロン戦の予行練習であり、世界は裏で専務と一部の国家首脳陣の結託によってコントロールされていた、ということでまとめました。
「世界は裏側でコントロールされている」ということは「情報が制限されている」ということです。しかし、我々一般人は真実の情報にアクセスする術を持ちません。仮に情報を得たとしても真偽を確かめることは不可能です。
「世界は知らないところで巧妙に操られている」というのがストーリー前半のテーマです。そのため主人公は事情をなにも知らないごく普通の一般人がベター。しかし、一人称視点でロボットの解説や戦闘の解説もしなくてはならないため、それなりにロボットや戦闘に精通した人物が望ましい。
本来30MMをストーリーに仕立てるなら「特別な性能を持たない量産機で優れた戦績を残す生え抜き」が鉄板主人公になると思われます。しかし、あえてその役はサブキャラ任せて、主人公はエグザマクスの製造元であるサイラス社の一般社員という設定にしました。これなら知識はあるうえ、イノウエ専務とも同じ会社の上司と部下で絡ませやすいとの思慮です。この発想から主人公・安室 玲が誕生しました。
ただし主人公の名前を安室 玲(アムロ・レイ)という名前に決めたのは、プロット製作の最後の段階でした。この名前のおかげで一般人としての没個性感を解消するとともに、名前負けに悩む主人公という設定で、物語に効果的な肉付けをすることができたと思います。同じバンダイつながりで読者も理解しやすいだろうという期待もありました。
しかしこうなると、徹底して主人公を名前負けさせなくてはいけません。(ガンダムの)アムロレイと対比的であればなおさら良しです。こうして、頭でっかちで弱腰で戦闘が怖くて漏らすカッコ悪い主人公・安室 玲のイメージが出来上がりました。
しかし、執筆を進めるうちに戦闘シーンは、サブキャラであるサイラス私設傭兵部隊に任せられるとしても、主人公を戦闘から徹底して避けさせてはマンネリ感が出てしまうことに気付きました。
主人公が弱いながらも戦う。もしくは、戦わなくてはならない状況に陥るように仕向けるのが、やや苦心した点です。また、弱い主人公だからこそ、成長を描かなければならなりません。けれど安直に成長してしまっては、弱い主人公に設定した意味がなくなります。
主人公の成長はあくまで緩やかに。戦闘能力の成長よりも、波乱のなかでの精神的な成長を描きたかったのですが、後半はキャラクター像がぼんやりしてしまった印象です。
書き終えてから気付いたのは、読者にとって身近な一般人を主人公に据えたのに、感情移入してカタルシスを得るような作品にはならなかった点です。
パーツを自由に組み合わせられる30MMは、作り手それぞれがプラモデルに込めるストーリーが中核となる商品プロダクトであると思います。そのため小説やアニメのように、ストーリーを付け加えたとしても、それがどれほど優れていようが陳腐になってしまうことは想像できます。
だから、あえてメーカーが行っているユーザー参加企画の〇〇戦をメインのストーリーにするのではなく、中核の輪郭=前日譚と裏側を描くことにしました。鉄板ロボットヒーロー物のアンチテーゼとしての意味を込め、鉄板展開を徹底して裏切ることを意識したものの、理想を表現するのは改めて難しいとものと実感します。プロット製作段階で、もっと練り込む必要があると感じました。
最終回は主人公たちがバイロン星へ向かうところで幕引きです。本文末尾の年表どおり、今後のネタはありますが風呂敷を広げすぎてしまい、すべて描ききるには多大な時間と労力が必要です。そのため、切りの良いこのタイミングで一時完結とさせていただくことにしました。
これまで本小説を読んでくださった皆様、評価してくださった皆様、感想をお寄せくださった皆様、ありがとうございました。この場で心からの御礼を申し上げます。
今後は、執筆途中であるアーマードコア4の小説の方に着手します。そちらもどうぞよろしくお願いいたします。